第47回 J. S. バッハのモテット|各曲概説①
モテット全曲演奏会に向けて、2回に分けて簡単に各曲について解説いたします。
より詳しい解説は演奏会場にて配布のパンフレットをご覧ください。
20ページの超大作です!
「主に向かいて新しき歌を歌え」 BWV 225
"Singet dem Herrn ein neues Lied" BWV 225
バッハが作曲した声楽作品のうち、彼の死後も命脈を保ったのはカンタータでも受難曲でもなく、モテットでした。彼の真作とされるモテットの数は少ないですが、この作品群はトーマス教会合唱団のレパートリーとして歌い継がれ、ライプツィヒを訪れたモーツァルトに「ここにこそまだ学ぶものがある」と言わしめました。モテット集の出版が早くも1802年だったことを考えるといかにバッハの作品の中でモテットが高く評価されていたかが窺い知れます。
バッハの時代、モテットというジャンルは既に時代遅れとされ、礼拝の中での地位をより大規模な器楽付き声楽作品であるカンタータに奪われていました。日曜日ごとに歌われるラテン語のモテットは『フロレギウム・ポルテンセ』という曲集から取られ、バッハ自身がラテン語のモテットを新作することはありませんでした(少なくとも現存する資料の中には1曲もありません)。バッハによるドイツ語モテットが演奏されたのは主に葬儀か追悼式で、これらの機会はバッハとトーマス学校の寄宿生にとって重要な臨時収入の機会となっていたのです。
“Singet dem Herrn ein neues Lied” BWV 225の使用用途、作曲年代はわかっていません(1726/27年と推定されています)。詩編第149編・150編と、103編をもとにしたコラール、そして中間部ではコラールと同時に作詞者不明の「アリア」と題された自由詩のセクションが挿入されています。18世紀初頭において、モテットに用いられたテキストは「聖句」か「コラール」に限定され、バッハもほぼそれを踏襲しています。このセクションに現れる自由詩はその中にあって、例外中の例外と言えるでしょう。彼はカンタータの中でよく行われているように、このモテットにおいて、「聖句」「コラール」「自由詩」という3種類のテキストを混合して用いました。
バッハは、モテットというこの当時にしてはいささか時代遅れな曲種においても、同時代の作曲家では考えられないような複雑で細部に手の込んだ作曲技法を用いました。彼は生前、自らの作品を他の作曲家の作品と比べ「はるかにむずかしく、複雑」と自認していましたが、このモテットにおいてもその複雑さ、難しさは際立っています。
「来給え、イエスよ、来給え」BWV 229
“Komm, Jesu, komm” BWV 229
バッハの遺したモテットのうち4曲は追悼式か葬儀のため、つまり人の死に際して作曲された作品であると推定されています。具体的な演奏機会がはっきりしているモテットは、「御霊は我らの弱きを助けたもう」BWV 226の1曲のみで、残りの作品の演奏機会はどれも推定の域を出ません。
「来給え、イエスよ、来給え」は、P. テューミヒ作の葬送歌をテキストとしています。このテキスト自体はバッハの生まれる1年前、1684年にトーマス学校教師であったヤーコプ・トマージウスの埋葬用に作られたもので、元トーマスカントルのJ. シェレによって音楽がつけられました。そのため一般には、バッハのこの作品は、シェレの未亡人の追悼式のために書かれたのではないかと考えられています。
このテキストはコラール風ではありますが、上記のようにコラールではありません。この作品は「聖句」と「コラール」をテキストとすることを原則とするモテットの伝統からは外れた作品ということができます。
この作品は二重合唱で、2部構成で書かれていますが、第2部が簡潔な4声体であるのに対し、第1部は長大で、バッハの創意と工夫に満ちています。
「恐れるな、我はともにあり」BWV 228
“Fürchte dich nicht, ich bin bei dir” BWV 228
このモテットも成立年代、演奏機会ともに不明ですが、D. メラメドによって、様式上の特徴からバッハにとって比較的初期の作品であり、作曲年は1715年頃ではないかと推定されています。二重合唱で、2部構成、第2部が4声のポリフォニーであるという点でBWV Anh. 159との共通点が指摘されており、この二曲がバッハの初期のモテットではないかと言われています。
前半の二重合唱の部分は基本的にホモフォニック(和声的)による歌い交わしですが、1箇所だけ現れるバスのパートソロが大変印象的です。
後半は4声によるポリフォニーで、下三声は非常に長大なフーガです。ソプラノは P. ゲールハルトを長い音価で、まるまる2節歌います。
「諸国よ主をほめ讃えよ」 BWV230
“Lobet den Herrn, alle Heiden” BWV 230
このモテットはブライトコプフ社によってバッハの死後半世紀以上たった1821年に出版されました。そこには「オリジナル手稿譜による」という但し書きがありますが、現在そのようなものは残っておらず、資料はこの出版譜しか残っていません。様式の面でもバッハの真作かどうかということには疑いが持たれていますが、少なくとも部分的には極めて巧みな、バッハの作としか思えないような技法がみられます。
4声という声部数も他のモテットには見られず、また独立した通奏低音パートの存在(通常モテットでは通奏低音は歌唱バス声部に重ねられる)などの理由から、失われたカンタータの一部ではないかという説もあります。
全体は2部分(①歌詞の1-4行目、②5行目 “alleluja”)に分かれ、前奏曲とフーガのような様相を呈しています。長大な前半部分は更に3つの部分(①歌詞の1行目、②2行目、③3・4行目)に分けることができます。
(櫻井元希)
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Salicus Kammerchor第5回定期演奏会
J. S. バッハのモテット全曲演奏会
http://www.salicuskammerchor.com/concert
5月8日(水)19:15開演 豊洲シビックセンター ホール tiget.net/events/45769
5月13日(月)19:15開演 武蔵野市民文化会館 小ホール tiget.net/events/45770
全曲録音クラウドファンディング https://camp-fire.jp/projects/view/106446
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第4回定期演奏会からヨハン・バッハ 「我らが人生は影のごとく」をアップしました!
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