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第50回 ミサ《ロム・アルメ》〜種々の作曲家による〜(その2)

12月19日のEnsemble Salicus第2回演奏会のプログラム解説その2です。

今回は後半プログラムを解説します。


その1はこちら→https://00m.in/OcZIP


 


サンクトゥス:ジョスカン・デ・プレ(1450/1455-1521)

ミサ《ロム・アルメ》~種々の音高による~

Sanctus : Josquin des Prez

Missa “L’homme armé”


 ジョスカンは言わずと知れた15-16世紀最大の作曲家。ジョスカンは“L’homme armé”の旋律を使ったミサ曲を2曲(「種々の音高による」と「第6旋法」)残していますが、この2曲はともに、1504年に出版された史上2つ目の印刷楽譜である「ジョスカン・デ・プレ ミサ曲集」に含まれています。この曲集にはジョスカンのミサ曲が5曲収められていますが、その最初に収められたのが「種々の音高による」であり、最後に収められたのが「第6旋法」です。この2曲がジョスカンのミサの中でもいかに重要な位置を占めていたかがこのことによってうかがい知れます。


 「第6旋法」において“L’homme armé”の旋律は定旋律として一つのパートに一貫して用いられるというよりは、全声部に、それも相当変形された形で用いられています。それに対し「種々の音高による」では、テノールに一貫して厳格に定旋律が用いられますが、副題の「種々の音高による」の通り、キリエはドから、グロリアはレから、クレドはミからというように、種々の音高で定旋律が歌われます。

 今回演奏するサンクトゥスの後半、ベネディクトゥスの部分ではメンスーラ・カノン( メンスーラとは、現代の記譜法における拍子記号のような、計量記譜法の概念。メンスーラ・カノンはこれを利用し、同時に歌い始めた複数の声部がそれぞれ違う音の長さで歌うことでポリフォニーを形成するという作曲技法。)の技法が用いられ、同声部による3つのデュエット(Benedictusはバス 2声、Qui venitはテノール 2声、In nomineはスペリウス2声)が、片方の声部がもう一方の声部の倍の長さで同じ楽譜を歌うという趣向になっています(譜例↓)。

ジョスカンのミサ《ロム・アルメ》よりベネディクトゥス

この一つの楽譜を見ながら2声のバス声部が歌う。


 


アニュス・デイ:ピエール・ド・ラ・リュー(ca.1460-1518)

ミサ《ロム・アルメ》

Agnus Dei : Pierre de la Rue

Missa “L’homme armé”


 ラ・リューは昨年2018年に没後500年を迎えた作曲家で、存命当時からジョスカン、イザーク、アグリコラなどと並び称せられる大家でした。ブルゴーニュやネーデルラントの宮廷と密接な関係を持っており、そのため主君に随行し全ヨーロッパを旅行することができました。スペインを訪問した際にはジョスカンにもあったのではないかと言われています。


 今回演奏するアニュス・デイでは、その中間部(第2アニュス・デイ)で、ジョスカンのサンクトゥスでも用いられていたメンスーラカノンがより拡大した形で用いられています(譜例↓)。ここでは音符の長さをを変えて歌うパートは4声であり(つまり一つの楽譜を見ながら4声が同時に歌い始める)スペリウス(ソプラノ)のパートを基準にすると、コントラテノール(アルト)とバスは2倍[4]、テノールは2/3の長さで歌う。信じられないような超絶技巧で書かれた作品で、技法の博覧会とも言える40曲超のミサ《ロム・アルメ》のなかでも一際異彩を放った作品と言える。


ラリューのミサ《ロム・アルメ》より第2アニュス・デイ

この一つの楽譜を見ながら4声が歌う。



 

グロリア:アントワーヌ・ビュノワ(ca.1430-1492)

ミサ《ロム・アルメ》

Gloria : Antoine Busnois

Missa “L’homme armé”


 ビュノワは特にシャンソンの作曲家として名声を博した作曲家で、同時代で彼と並ぶ、あるいは凌ぐ作曲家はただ一人オケゲムのみと言われます。それほどの作曲家でありながら、彼の作として残っているのミサ曲は2曲のみで、その一つがミサ《ロム・アルメ》です。40曲超に及ぶミサ《ロム・アルメ》の伝統の最初期にある作品で、16世紀の理論書には、ビュノワこそがこの旋律の作者であるという記述もありますが、確かなことはわかりません。


 今回演奏するグロリアでは、長く引き伸ばされたテノールの定旋律を軸に、これとほとんど音域を共有するコントラテノール、バスが絡み合います。デュエットで始まるのはデュファイと同じですが、ビュノワのデュエットはデュファイのそれほど長くはありません。また曲の終結部ではC3というスピード感のあるメンスーラが用いられ、畳み掛けるようにしてクライマックスを形成しています。

(櫻井元希)


 

Ensemble Salicus第2回演奏会

ミサ《ロム・アルメ》 〜種々の作曲家による〜


2019年12月19日(木) 19:15開演 大森福興教会(JR大森駅下車徒歩5分)


演奏:Ensemble Salicus(アンサンブル・サリクス) 鏑木綾 渡辺研一郎 富本泰成 櫻井元希


チケット予約→https://tiget.net/events/66378


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