第57回 二人の天才〜モンテヴェルディ→シュッツ〜
サリクスは昨年より「ハインリヒ・シュッツの音楽」と題した演奏会シリーズに取り組んでいます。
5月の第7回演奏会ではそのvol.2としまして、シュッツが多大なる影響を受けたモンテヴェルディに焦点を当て、この二人の天才の作品を聴き比べていただけるプログラムを組みました。
プログラムは4つのセクションに分かれております。
①Hodie & Magnificatセクション
Gregorianchant Antiphona "Hodie Christus natus est" Cipriano de Rore "Magnificat" Verse 1-6 Claudio Monteverdi "Magnificat" Verse 7-12 Claudio Monteverdi "Hodie Christus natus est" Heinrich Schütz "Meine Seele erhebt den Herrn" Heinrich Schütz "Hodie Christus natus est"
②O boneセクション
Josquin des Prez "O bone et dulcissime Jesu" Loyset Compère "O bone Jesu" Marc'Antonio Ingegneri "O bone Jesu" Giovanni Pierluigi da Palestrina "O bone Jesu" Claudio Monteverdi "O bone Jesu, o piissime Jesu" Heinrich Schütz "O bone, o dulcis, o benigne Jesu"
③直接引用セクション
Claudio Monteverdi "Armato il cor" Heinrich Schütz "Es steh Gott auf"
④似た編成セクション
Claudio Monteverdi "Beatus vir" Heinrich Schütz "Hütet euch, dass eure Herzen nicht beschweret werden" Claudio Monteverdi "Confitebor tibi, Domine II" Heinrich Schütz "Lobet den Herrn, alle Heiden" Claudio Monteverdi "Dixit Dominus II" Heinrich Schütz "Nun danket alle Gott"
①Hodie & Magnificatセクション
前半プログラムは例年通り、グレゴリオ聖歌からシュッツへと至るキリスト教声楽作品を選曲しています。最初に演奏するのはアンティフォナ “Hodie Christus natus est”とマニフィカトです。このアンティフォナは典礼上マニフィカトを挟んで2回演奏される事となっていますが、今回はその規則にのっとって演奏します。がしかし本来は2回だけ演奏されるところを、もう1周マニフィカトを挟んで3回演奏します。マニフィカトは12節からなるカンティクムですが、その前半はチプリアーノ・デ・ローレ、後半はモンテヴェルディの作品を選曲しました。続くアンティフォナはモンテヴェルディの作品、そして2周目のマニフィカトはシュッツの作品で、こちらはドイツ語版のマニフィカトです。このセクションの締めくくりはシュッツのアンティフォナとなっております。ややこしいですが、要するにHodieとMagnificatが交互に演奏され、時代順に並んでいるというわけでございます。
②O boneセクション
続くセクションは使用されるテキストに注目し、“O bone Jesu”というテキストを持つ作品を時代順に配置しました。
ジョスカン→コンペール→インジェニェーリ→パレストリーナ→モンテヴェルディ→シュッツ
という6人の作曲家による作品で、2声から8声まで編成も様々です。また歌詞も全く同じではなく、様々なバリエーションがあります。そこもまた注目して聴いていただけるとよりお楽しみいただけるかと思います。
ここでもモンテヴェルディの作品は2声のマドリガーレ風のモテットで、その一つ前のパレストリーナが重厚な二重合唱であるために一層軽やかで自由な作風と感じられることでしょう。
③直接引用セクション
後半最初に演奏するのはモンテヴェルディの2声のマドリガーレ、そしてこの作品を引用したシュッツのモテットです。シュッツがモンテヴェルディの作品から直接引用したことがわかっているのはこの例だけです。
"Armato il cor"と"Zefiro torna"が引用されていますが、今回は前者のみを演奏します。Zefiro tornaは有名ですしちょっと長いので、今回はプログラムに含めませんでした。
動画を挿入しておきます。こんな軽やかな世俗曲が、宗教曲に、しかもシュッツの手によって編曲されたというのはなかなかワクワクしますね!
④似た編成セクション
続く最後のセクションは、編成に注目し、ほぼ同じ編成による二人の作曲家のモテットを続けて演奏いたします。編成が同じものを続けて演奏することで、モンテヴェルディとシュッツの共通点、相違点が浮き彫りになるのではないかという考えで選曲しました。
6声+ヴァイオリン2本
Claudio Monteverdi "Beatus vir" Heinrich Schütz "Hütet euch, dass eure Herzen nicht beschweret werden"
3声+ヴァイオリン2本
Claudio Monteverdi "Confitebor tibi, Domine II" Heinrich Schütz "Lobet den Herrn, alle Heiden"
8声+ヴァイオリン2本
Claudio Monteverdi "Dixit Dominus II"
10声+ヴァイオリン2本 Heinrich Schütz "Nun danket alle Gott"
そもそもモンテヴェルディの作品はラテン語のテキストに作曲され、シュッツのものはドイツ語ですから、そういう点ですでに大きな相違が生まれていますが、それでもシュッツがモンテヴェルディから受けた影響を随所に感じることができます。その上でシュッツの個性といいますか、ドイツ語をいかにも自然にイタリア風の音楽と融合させているという天才ぶりを感じていただけるのではないかと思います。
また、モンテヴェルディとシュッツ、同時代を生きた二人の天才の作品を様々に聴き比べるこの時代のイタリアとドイツがいかに結びつき、それぞれに個性的な音楽文化を形成していったのかということについて思いを馳せることができるのではないかと思います。少なくとも日本の音楽シーンにはシュッツの音楽の魅力が伝わりきっていないように感じていますが、この演奏会を通してその魅力にハマってしまう方が一人でも増えればいいなと思っております。
Salicus Kammerchor第7回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.2 二人の天才 〜モンテヴェルディ→シュッツ〜
【日時・会場】 5月20日(金)19時開演 日本福音ルーテル東京教会 チケット予約:https://tiget.net/events/160766 5月22日(日)14時開演 台東区生涯学習センター ミレニアムホール チケット予約:https://tiget.net/events/160767
メンバープロフィール→https://www.salicuskammerchor.com/blank
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